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 あの方が到着したとき、私は心の準備がまるでできていなかった。
 こちらに来ると告げる手紙が届いてから数日しか経っていなかった。
 こんなに早く会うことになるなんて。新しい服を仕立てる時間も、最新の化粧法を教わる時間も取れず、ただ髪を念入りに結い直してもらって、応接間に立ち尽くしていた。
 そこへ待ち人を案内する臣下の声が聞こえて、やがてドアが開いた。

「ようこそお越しくださいましタ……お待ちしておりましタ」

 すぐに走り寄って抱きつきたかったのにそれができずに、月並みな歓迎の言葉を述べるだけの私を、あの方は少し不思議そうに見て、それから決して忘れることのなかった笑顔で茶目っ気たっぷりに挨拶した。

「お久しぶりですメイ殿下。アルフォンス・エルリック到着いたしました」

 何だかわからない感情がせり上がってきて、涙がこぼれそうになるのを私は必死でこらえた。あの方は最後に見たときよりもずっと背が伸びて、やせ細っていた体もがっちりと筋肉がつき、砂漠を越えて日焼けしたせいなのか、少年というよりはすでに青年の面立ちだった。ただきらきらと輝く金の瞳と、同じ色の短くそろえられた髪は変わっていなかった。限りなく優しく見えるその微笑みも。

 聞けば、こちらに向かうとの知らせの手紙を出したのは、出立よりもだいぶ前だったという。国交が回復して通商も郵便も復活したとは言っても、まだまだその程度なのだ。大きな政変に見舞われたあの方の国と、あの方の兄と同い年の皇帝が立ったばかりの自分の国と。隣り合っていながら、二つの国はとても遠い。

 それでも、あの方は来てくれた。
 私を迎えに来たわけではないけれど。



 錬丹術を学びに来たはずのあの方には、連日、皇帝からの使いが来た。食べきれないほどの料理でもてなされなて、かの国の現在の情勢を根掘り葉掘り聞かれたと、あの方は笑った。

「僕は兄さんと一緒にずっとリゼンブールにいたから、国がどう変わったかなんてあまりわからないんだけどね。こんなことなら出発する前にマスタング准将に教わっておけばよかったかな」

 そんな必要ないのに。あなたは私のお客様です、私とだけお話ししてくださればいいんです。昔ならきっとそう言えたのに、どうして今は言えないんだろう。



 しばらくしてやっと、皇帝からの呼び出しがなくなった。のんびりと暇そうに見えるあの異母兄にもいろいろとやることがあるらしい。

「メイだって一族や領地のためにいろいろ走り回ってるじゃないか。リンは広い国全体のことを考えなきゃいけないんだからもっと忙しいんだよ。偉い人はせかせか忙しそうに見せちゃいけないんだってさ。兄さんが言ってた……サボってばっかりいるように見せて、いつのまにかすごいことをしてたりするんだって」

「せかせかしててすみませんネっ。今日は書庫にお連れしようと思ってたんですけド」

「わわ、ごめんごめん。メイが偉くないとか、そういうこと言ってるんじゃないんだよ」

 金色に光る髪をわずかに揺らしてあの方が笑う。それを見たら誰でも心を許してしまいそうな笑顔。大好きな笑顔。
 それなのに、胸が痛い。

 見透かされないように背中を向けて歩く。そのまま書庫の戸をあけて、棚にある古い巻物をいくつか取り出す。
 顔を見ないで、目を合わせないで。

「錬丹術でハ……知識の取得だけでなく、大地の気脈を感じ取ることが大切でス。山にこもって修業する方も多いでス」

「じゃあ僕も修業したほうがいいかな」

「基本的な考え方は読んで身に着けたほうが早いかもしれませんネ。でもそのためにはこの国の言葉と文字を学ぶ必要がありまス」

「わ、そこからか……いや当然だよね。うん、何をやらなきゃいけないかだんだんイメージがわいてきたよ」

 少しあの方の声の様子が変わったような気がして、私は思わずそちらを向いてしまった。
 あの方は真剣な顔で、巻物の図案を指でたどっていた。
 あの眼差しをどこかで見たな、とふと思った。

 寒い北の山の中で錬成陣を一緒に解読していたとき。
 それから、
 兄の右腕を取り戻すために、真理の扉へ送ってほしいと、私に言ったとき。

 鎧の姿だったけれど、その眼の強い輝きは、確かにここにいるこのひとのものだった。
 
 ああ。
 私は今のこのひとのことが好きだ。

 きっとみんなが知っている優しい眩しい笑顔のあの方ではなくて。



 気配に気づいて、あの方が顔を上げてこちらを見た。私は急いで目をそらした。

「あ、あの、アル様はなぜ錬丹術を学ぶことにしたんですカ?」

「んー、それはね……いや、メイには話さなきゃいけないよね。僕の師匠だからね……」



 あなたはきっと、私から学びたいことがたくさんあるのですね。
 私にも知りたいことがあるのです。
 本当のあなたのこと。
 一生かけても、知りたいのです。







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元ネタは、Perfumeの「シークレットシークレット」。
以前からとても好きな曲でしたが、エドウィンとかロイアイとか、付き合い長い系のカップルにはちょっと合わないよね、と思っていたところ、ある日すずめさんのお話にインスパイアされて「そうか、アルメイか!」とw
メイちゃんなら力いっぱい乙女でもいいですよね……?
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2012.02.08 Wed l 二次創作 l コメント (0) l top
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