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  その日起きてダイニングに行くと、父の姿はなかった。いつもは父の好む紅茶と父が読んでいる新聞のインクの匂いが漂っているがそれもなく、部屋はしんとして寒かった。
 
 多分父は書斎に籠っているのだろう。昨夜遅くに父が「仕事」から帰ってきたのは知っていた。

父が書斎にいるのなら、次に出てくるのはいつになるかわからない。わたしはキッチンへ行き、食糧庫からパンとチーズを取り出した。牛乳は数日前から切れている。水道の蛇口をひねり、コップに水を汲んで、テーブルに置いた。  
  堅くなったパンを囓っていると、ドアの開く音がして、父が入ってきた。「仕事」の時に着ている、白いスラックスに白いベストのままだった。ネクタイも少し緩んでいたが外されていなかった。

父はわたしに気がつかないままキッチンへ行った。水がほとばしる音がする。お茶を淹れるために湯を沸かすのかと思ったら、コップを手にして出てきた。 

「水を出したら蛇口はきちんとしめてください」

わたしははいと言った。書斎での作業に一段落ついたのだとわかり少し嬉しかった。 
父はそのままダイニングテーブルにやってきて向かいに腰掛け、コップの水を飲んだ。わずかに差し込む朝日が、父の白い喉仏が上下するのを照らす。この人も生水を飲むことがあるんだなと、わたしはおかしなことを考えていた。 

「天気がよくなったようですね。今日は外に出ましょう」

わたしが頷くのを見て、父は立ち上がり再びキッチンへ行った。
 


こういう日を小春日和というのか、弱々しい冬の陽射しの下でも、歩いてみるとそれほど寒くは感じなかった。 

パンを買って、なおも父と歩いた。

父は考え事をしているようだった。昨夜書斎に籠っていた時と同じように何かに心を囚われているのかもしれない。

公園のある一角に来た。ベンチに座り、通る人を眺めた。父は指を組み合わせ、時折何かを呟いたりしている。考え事が終わる気配はなかった。
わたしは立ち上がってベンチの周りを見渡した。棒切れを見つけてそれで地面に落書きなどしていると、いつのまにか父が後ろに立っていた。

「何か欲しいものはありますか」

全く予想していなかった質問だったので、わたしはどう返してよいかわからず、ふるふると首を横に振った。

「そうですか。では、行きましょう」
父は特にがっかりした様子でもなく、淡々と歩き出した。わたしはそれを急いで追った。


 
家の近くまで来たところで、花売りがいるのを見つけた。不意に父が言った。

「花。悪くないですね」

そして一輪の濃紫の花を手に取った。

「ユーストマですか」

わたしはもちろんその花の名を知らなかった。ただぼんやりと、こんな季節にも咲く花があるのかと思っていた。
花売りにいくらか払った後、父はわたしにその花を渡した。

「これを、貴女に」

父はありがとうとわたしが言うのを見て軽く頷き、そしてまた歩き始めた。

 「いずれ枯れる花ですが、その移ろいそのものが美しい。……花瓶になるようなものを探しましょう」

紫色の薄い花びらが揺れた。  





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Twitterにて、「普段はそんな事しないのに、気まぐれでプレゼントをあげちゃうキンブリパパ」というお題をいただき、何それ萌える……!!と勢いで書きました。(またか
ユーストマとはトルコキキョウのことです。キンブリーさんにバラやガーベラは似合わないよね。

ひづるさん、ありがとうございました~♪
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2011.12.30 Fri l 二次創作 l コメント (0) l top
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