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 リザの肌は美しい。細やかな肌理、透明感と両立する頬の赤み、上質の磁器を思わせる滑らかな艶。 いつでも触れていたい、と思わずにはいられない。
 しかし、その状態を保つにも努力が必要なのだというのが本人の弁だ。実際、リザは多忙にも関わらず(ロイと二人きりになる時間だって業務外では滅多にないのだ!)、新しい成分の入った化粧水だの、同僚女性に教わったという謎のマッサージ(これはもう百年の恋も冷めそうな表情になるのでとにかくやめてくれとロイは懇願した)だのをちょこちょこと試しているらしい。

 そして、今日。ロイは非番であり、リザは夜勤からの午前勤務で昼には戻る。許可を得て鍵を開け、一足先にリザのベッドでまどろんでいたロイはふと、リザのドレッサーの上に置いてあるチューブに目を留めた。
 リザは普段、化粧品の類は全て引き出しにしまいこんで、ドレッサーの上にはヘアブラシくらいしか置かないのが常であった。誰かにもらってそのままにしていたのか。
 通常、ロイは、リザの私物に関心を払うことはないのだが、なぜかそのチューブには興味を惹かれた。
 チューブのラベル表面には、化粧品の類にはよくあることだが、クリスタルだのホワイトだのマジカルだのリペアだの 、女性に余計な期待を抱かせそうな文言が散りばめられている。散文的に成分表示を見ようと裏返したロイの目に、とある文字が目に入った。

「パック」

 パックというのは確か、粘度の高いクリーム状のもので、それを顔じゅうに塗って暫し置いて乾かしてからはがすと、有効な成分が肌にしみ込むと共に 老廃物を取り除く作用のある化粧品だ。先日何かの折にファルマンが解説していた。

―自分も、やってみようか。

 ロイは後々まで、そのような思いつきに至った自分の思考回路を責めたものだ。しかしいかなる未来が自分に降りかかるか、この時のロイには思い至るはずもない。
 チューブのキャップをねじると、白い内容物が見えた。チューブに力をこめるとほどなく、ぬめりのあるクリームがにゅるり、と出てきた。

「痛まず、しまず」

 そんな宣伝文句があったような気がするが、はて、何の軟膏だったか。
 長い中指の第一関節ほどまで軟膏、もといクリームを押し出すと、ロイはそれを自分の頬に載せてみた。意外になじみの悪いそれは、やや力をこめて塗りつけないと肌に定着しない。なめらかなリザの肌であれば違うのだろうか。
 これをうまく塗るのはどうしたらいいのか。ロイは延ばしたり叩いたり、いろいろ試した。そのうちに、クリームは顔中に広がってしまった。
 やがて、冷んやりとした感覚と薄皮が張り付くような感触とが顔中を覆った。子どものころに近所の左官屋が漆喰を塗るのを手伝った時のことを思い出す。さらにそれに関連して違う記憶が頭をよぎったが、その不吉な記憶については急いで元の場所に押し戻した。
 乾くには時間がかかるようだ。自分の家でもないここでは、特にやることもない。ロイはベッドに転がり、持参した本に目を通し始めた。

 ***

 がちゃり、という音に、ロイは目を覚ました。またうたた寝してしまっていたようだ。疲れて帰ってきたであろうリザを出迎えようと、玄関に向かった。

「遅くなりました」

 リザは笑みを浮かべながらロイの方を見た……そしてその途端に持っていた鞄を取り落とし、すかさず銃を構えた。

「ちょっ、中尉……!?  違う違う、私だっ」

と、言ったつもりだったが、実際はくぐもった声がフガフガと出ただけだ。
 それでもリザはその情けない声がロイのものであると理解したらしく、銃をしまった。そしてその場にへたり込んだ。

「中尉……?」

 屈み込んだロイはリザの肩が小刻みに動いているのに気がついた。顔を上げたリザはロイの顔を見るなり、再びうつむいた。くっ、くっ、と、必死に笑いをこらえながら、耳まで真っ赤にしている。
 ことここに至ってやっと、ロイは自分がひどくみっともない姿になっていることに気がついた。

―しまった。
―まずは事情を説明せねば。
―しかし事情とは何だ?

 いや、とにかくこの顔面を覆っているものをはがすのが先決だ。
 ロイは額に貼りついた「パック」をつかんで勢いよく下向きにはがした。

「イデデデデデデ!!」

 一緒に顔の皮もはがれたのかと思うような激痛が走った。しかしまだ「パック」は半分しかはがれておらず、 思わずもれた声も間抜けなままだ。  
 リザがもう一度顔を上げて、ロイに手を伸ばした。目尻に涙が滲んでいる。ベッドではなくこんなところでリザの涙を見ることになるとは。

「た、大佐……パックは、下からはがすんです……く、く、く」

 リザは若干目をそらしながら、ロイのあごの下に貼りついている「パック」をつまみ、引っ張り上げた。

「ゔああああああ!」

 ついに「パック」ははがれた。そのはがれた白いものを見て、ロイは肩を落とした。

―これは私のデスマスクか?

 それに追い打ちをかけるようにリザの声がかぶさった。

「大佐……ま、眉毛が少し……抜けてます」

 ***

 翌朝、ロイは誰にも会わないよう早朝に出勤した。そしてリザに、今日は重要な報告書の取りまとめがあるから用件はすべてリザを通すよう関係者に伝えさせた。
 しかし、ロイが信頼する部下の中には、空気を読まない人間というのがいるのである。

「大佐~! すいませんこれ、至急でサインいただきたいんすが」

 ノックもせずにいきなり駆け込んできたのはやはり、ハボックだった。そして毎回のことだが、余計なことを言う。

「あれ?大佐、顔が……なんかマダラっすよ? あと……眉毛剃ったんですか?」

 ロイは何も言わずハボックの前髪を焼いた。





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某所にて、私がかつて弟にした仕打ちについて語った折、フーセンガムでパックをした、という話がバカウケしまして、メンツがロイアイクラスタの方々でしたので当然そちらへ話が流れて行った結果がコレです。
従いまして、文中登場する「不吉な記憶」とは、ロイがご幼少のみぎり、酒場のおねーたまにやられた仕打ちであります…そのへんは今回入れられなかったのでいずれまたw
なお、「痛まず、しまず」はご存じの方も多いと思いますが、某痔疾専門薬局のコピーであります。

ところで真っ白い顔面の男がいきなり寝室から現れた時、リザさんは超怖かったと思います…ふびんだ。
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2011.10.24 Mon l 二次創作 l コメント (0) l top
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