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「え、もう明日発つの?リオールには入らずに?」

アルフォンスは驚いた様子で、「傷の男」のほうに振り向いた。

北部から南下して来た彼ら一行は、リオール郊外の小さな集落の一角で野営していた。
野営と入っても冬が始まり凍死の危険があるため、使われていない物置と毛布を借りてウィンリィやマルコーたちは休むことになった。
寒さを感じることがなく、睡眠も必要としないアルフォンスは、いつもどおりその入り口に座り込み、考えをめぐらせていたところで、「傷の男」が出てきたのだ。

「この村で同胞に会えて、リオールには話の通じる同胞のコミュニティはないことがわかった。だからお前たちとこれ以上一緒に行動するのは意味がない」
「そ、そうだね」

「傷の男」が腰を下ろしたので、冷えないようにとアルフォンスは種火に薪をくべた。
やがて、明るい炎が立ち上り、二人の顔を照らし始めた。

「…兄のことを考えていたのか?」
「え、いや…あ、でも、時々考えることはあるよ。今頃何やってんだろうって。行方不明っていっても、兄さんが…死んだりとか…、ぜんぜん想像できないんだ」

はは、とアルフォンスは笑った。
表情など表しようのない鎧の身体なのに、しばらく日々を共にするうちに心の動きがだんだんわかってきたことが、「傷の男」には不思議だった。兄のほうも何を考えているのか手に取るようにわかるような行動をする。この兄弟は感情豊かに育てられ、育ってきたのだろう。

自分は、どうだったろうか。

「確かに、お前の兄は簡単に死にそうにないな。…己れも殺せなかった」
「や、やめてよ。あのとき、本当に兄さんが死ぬんじゃないかって、ボク、どうかなりそうだったんだから」
「…すまんな」

「傷の男」がすんなりと頭を下げたのを見て、アルフォンスは話題を変えた。

「あのさ、お兄さんは…どんな人だったの?錬金術師だったんでしょう?」
「…兄はもともと歴史に興味があって、いろいろな古文書を紐解いているうちに、錬金術関連の文献を中心に読むようになった。それで、錬金術の可能性に気づいて、研究を進めるようになったのだ」

文献を読みふける兄の背中が思い出された。

温厚で、誰にでも公平に接する兄を「傷の男」は尊敬していた。しかし一方で、兄はその穏やかな姿からはまったく想像できないほど、自由で急進的な考え方をしていた。錬金術をはじめとしたアメストリスの学問を積極的に取り入れるべきだと主張していたのだ。宗教を生活の中心におき、教義に外れた行動を厳しく律する長老連からは、兄は危険人物とみなされていた。
何度も長老会議に呼び出されそうになった兄に苦言を呈しつつ、長老連のところへ出向いて弁解をしていたのは「傷の男」だった。武僧として厳しい鍛錬を積み、謹厳実直そのものの「傷の男」は長老たちからも信頼されていたのだ。

「兄は、お前の兄とはだいぶ違う性格だったが…今思うと、似ているところもあるな。…言い出したらきかない人間だった」

アルフォンスが噴き出した。

「そう!そうなんだよ!すぐ自分のほうが正しいって言うしさ」
「相手が誰でも、自分が正しいと思うことをそのまま言うから、よく人を怒らせる…」
「それで、いつもその尻拭いをするのは、弟なんだ」

くっくっと「傷の男」が楽しそうに笑った。
アルフォンスは、「傷の男」が笑うのを初めて見た気がした。懐かしそうな、暖かな眼差しも。

ひとしきり笑ってから、「傷の男」はふと口をつぐんだ。

「他にも、似ているところはあるぞ」
「え、何?」
「……弟のことを、自分よりも大切にしているところだ」
「………」

『生きろ』『死んではいけない』

朦朧とした意識の中で、微かに聞こえた兄の最期の言葉。

『じゃあ約束しろ…弟には手を出さないと』

あの時、アルフォンスの兄はそう言った。自分が殺されようとする、その瞬間に。

(己れは…この鎧の弟から、兄を奪うところだったのだな)

「…すまんな」
「え、何だよー。な、なんか、調子狂うよ。『傷の男』にそう言われると」
「そうか。……もうじき夜明けだな。そろそろ、マルコーを起こして出発する」
「うん」

「傷の男」は立ち上がり、空を見上げた。

「……アルフォンス」

東の空に、すでに明けの明星が輝いている。そしてその近くに、三日月よりもなお細い月が出ていた。

「お前の兄は生きている。…お前を置いていくことはない」
「……うん」

二人の弟は、白み始めた空を眺めていた。





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1月23日、「いい兄さんの日」記念です。
実はずっと暖めていたネタでありますが、今回書くために2巻を読み返して、思わず泣きました。
直後に、大佐はじめ軍部の皆さんのコミカルな場面になるので通り過ぎがちですが、これ名場面ですよねえ…じーん。
テーマソングはB'z「ALONE」です!大好きだー!!カスイさんありがとうございます。
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2011.01.23 Sun l 二次創作 l コメント (0) l top
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